さすらいのハル、異論反論日記

ドラマや映画、漫画やニュースに言いたい放題言わせて頂きます。

下剋上受験というドラマにひとこと

 塾講師の私としては、もともと注目していたこのドラマでしたが、このお話から学べること、突っ込みたいことはいくつかありました。

 まず、作中に出てくる塾は塾として問題があるということ。前に生徒を出させて答えを書かせて正解するなら、そもそも講師なんていらないわけで。カリスマ講師なら、そうでなくてもまっとうな講師なら生徒がつまずいているところを見つけてヒントを出すべきなのであって、恥をかかせるべきではない。阿部サダヲはこの塾に娘を入学させなくて正解である。でも、やはり勉強でわからなくて困ることは出てくるわけで、先生的な存在は必要だろう。不動産屋の部下で東西大学出身エリートを家庭教師として1週間に数回雇うのが手っ取り早い解決策だとは思うが、だれか、勉強のプロフェッショナルを見つけ出す必要性はあるだろう。

  阿部サダヲ扮するお父さんが「俺が塾になって、問題集を一緒に解く」という考えは、塾に頼っている保護者全てに聞かせてやりたい心掛けだと思う。塾なんてほとんど週1・2回の授業、時間数にして月4-6 、多くて8-10時間だけなのである。時間数が少なすぎる。もちろん自習室を開放していることをウリにしている塾は多いが本人のやる気がなければここを有効活用はできない。

   実をいうと、私の父はこのドラマの阿部サダヲと同じことを生き甲斐にしていた。ドラマでは娘を中卒にしないという目標を立てているが、法学部卒で公務員だった父は文型の限界を感じ、私を医師にすることが人生の目的だった。結果から言うと私は英語科に進んだから父の目論見が外れたことになる。しかしその教育方針は塾の講師として今生徒に強要するにはハードすぎるが、正しかった気がするのだ。ドラマで阿部サダヲが本屋で問題集や参考書を一気に何十冊も買い込むシーンがでてくるが、受験に関してはそれが正解だと思う。欲を言えば、解答解説らんが詳しい問題集を精査すべきだったろう。通信教育なども盛り込んでもいいかもしれない。しかし、父の方針も同じく各科目の問題集を約6冊ずつ買って、定期試験の度に範囲を6冊分、5教科なら30冊こなすわけだ。といっても、試験範囲などページ数にして10ページあるかどうかだから300ページやるだけ、といえばシンプルそうに聞こえるし、公務員試験や落ち続けたけど司法試験勉強に慣れていた父にとってはこれくらい当たり前の学習方法だったのであろう。利点は、異なる問題集を数こなす事によって、共通する問題が解ってくることだったりする。そこが試験のヤマともいえる。どんな馬鹿でも同じ問題を6回やってまた同じ問題に遭遇すれば嫌でも答えを覚えるものだ。家族からは「バカなら人の二倍勉強しろ」と繰り返し言われ、私もバカみたいにそれに従った。ある意味虐待だな… 弟はそれを拒んだので親が文字どおり体を押さえつけて時折殴りつけられながら同じ勉強法を強要させられた。まさに虐待だ… 

   その結果、地域のトップ公立校に受かったと書くと成功譚としてとられるのだろうが、やはり公務員の娘、母も短大卒で勉強の素質はあったのだと思う。このドラマで少し私が危惧しているのは中卒でも頑張れば学歴を得て将来を開けると思い込む人が出てくることだ。私は鉄棒の逆上がりもできない一輪車も乗れないマラソンもビリの完全な運動音痴だが、世の中には勉強の音痴もいる。それは教える仕事をしていて嫌という程思い知らされている。彼らは中卒とかバカとか呼ばれるのを極度に恐れているけれど所詮逆上がりができないのと同じレベルのことだと私は思っている。逆上がりも英会話も数学の証明問題もできなくて人生で困ることってどれ位ある?その代わり勉強なんか無視してドラマの登場人物のように中卒だけど大工や個人商店の経営者として活躍している人もたくさんいるはずだ。結果的に勉強から遠ざかるから中卒ということになるけれど。阿部サダヲはたまたま中卒だけど不動産屋の仕事ぶりからして地頭の良い人なんだと思う。そういう意味では娘の香ちゃんの成績にも期待は持てる。

    私は学習塾講師として保護者からお叱りの電話を受けることがあるのだけど、時にはこちらに非があることもある。しかし、文句の内容が「試験の結果が悪かった。通知表の評価が2だった。」として、保護者のあなたは大切な子供のために何をしてあげただろうか?阿部サダヲみたいに一緒に勉強してあげた?塾は確かにお金を払って勉強を教えるところだけど、美容室のように数時間後満足な結果が返ってくるわけではない。本人が努力しなければ講師がどんなに分かりやすく教えても限界はある。塾はライザップやエステに似ているのかもしれない。結局本人がインストラクターの指示どおり動かなければ結果はコミットできないから。

    私は生徒を通じてテスト前に保護者向けの手紙兼指導マニュアルを渡すことにしている。対象は主に高校生。たまに中学生。まず、問題集と暗記事項を(       )で抜いた手作りプリントを数十枚渡しておく。そして、英語に限ったことだが、親の前で教科書の音読、プリントを使った暗唱を10回近くしてもらう。できれば教科書の暗唱が完璧にできる所まで行けば満点も狙えるレベルに到達するだろう。でも、私がここまでやったところで、マニュアルを本当に親に渡す生徒が何人いるだろう。親もそこまで必死に面倒見てやろうと思える人がどれだけいるだろう。塾はそんなに表面的で金儲け主義の場所ではない。結果が全てだから講師だって地味でも良心的な人はたくさんいる。

   だから、この「下剋上受験」を見て、俺も私も阿部サダヲみたいにやってみようと思った保護者の人は、塾(学校でもいいけど個人対応はできないので)の担当者に、「『下剋上受験』っていうドラマを見たんですけど、私も家で学習を手伝いたいんですよ。どうすればいいですかね?とりあえず復習できる宿題を1週間分出してもらえますか?監督は自分がしますんで。わからないことがあったら来週の授業で教えてもらえます?」と持ちかけてみることをオススメします。一緒に勉強するのであれば個別指導塾なら保護者が横で見学していても迷惑かもしれないけれど断りはしないと思いますよ。

     このドラマはドラマなので娘の香ちゃんはかなり先天的に勉強のできる子で努力をしてなかっただけ、という展開なんだろうけど、阿部サダヲパパがこれからどんなマイホーム塾センセイになるのかが楽しみです。

     個人的には明るくて前向きな家族、とくに不器用だけど優しい爺ちゃんとバカながら可愛くて現実的な深キョンママがいるってだけで中卒とか関係なしに幸せだと思いますけどね。みんな、逃げ恥で高学歴な二人が悩みのどん底に苦しんでいたことをもう忘れちゃったの?